3]」はママ] お、白え犬だぞ!」
「ややっ、昼間の野良犬、頬を銜えた――。」
「しいっ!」
 と低声。なおも凝視《みつめ》る。
 犬は、白犬は、垣について土を嗅ぎ嗅ぎ、裏へ廻って小庭の隅を掘り出した。心得た場所と見えて逡巡《ためらい》もしない。
 潮時を計った藤吉。
「彦!」
「わあっ!」
 と、犬を脅すため、大声揚げて飛び出した。消しとぶように犬は逃げる。その後に立った二人、犬の穿った穴をじい[#「じい」に傍点]っと睨んでとみには声も出なかった。
 穴の周囲一尺ほどの土を埋めて、水雲《もずく》のように這い繁っているのは、星を受けて紫に光る他《た》なし漆の黒髪!
「――――」藤吉。
「――――」彦兵衛。
 と、この刹那、けたたましい勘次の声が闇黒を衝いて背戸口から、
「お、親分、出た、出た、出た!」

      五

「あれが。」
 勘次の指す背戸口に地底から洩れる青白い光りが、土塊《つちくれ》を隈取ってぼう[#「ぼう」に傍点]っと霞んで、心なしか地面が少し盛り上っている。藤吉はつかつか[#「つかつか」に傍点]と進んでその上に立った。足から膝まで光線に浸って、着ている物の柄さえ読め
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