ている。これは穏当《おんとう》ではない。おりんお滝は恨むことを知る年齢に達していたから、星の水を藉りて満々と拡ごり恨み、また、納音《のういん》山中火の音と響いては火と化して炎々と燃え盛っているのではあるまいか。土水木各々をその納音で見れば、お久美は大駅土、大く土に駅《とど》まる。
 お鈴は柘榴木、石榴の古木は、挽いて井桁《いげた》に張れば汚物は吸わず水を透ますとか。
 おりんお滝は山中火、山は土の埋《うず》高き形、言い換えれば坤だ。土だ。火はすなわち烈しき心。破り毀《そこ》なう物の陽気盛んなれど、水の配あらばたちまち陰々として衰え、その状さながら恨むに似たりと。
 土と木と水――土中に木があって水がある、いや、水があるところに火がある、激しい遺恨《うらみ》が残っている――土中に柘榴の材《き》が張渡って、水のあるべきところに水がないとは?――井戸、古井戸!
 門から西南の土に古井戸があろう。その底に女の気がする、酉年生れの女の星が飛去り得ずして迷っている!
「家の内には井《いど》の神――おう、惑信!」夕闇のなかで藤吉は小膝を打った。「だが待てよ、あの高札が惑信の本尊じゃあねえかな。と、彼
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