らく骨を折らされましたて。が、まあ、とどの詰り、お申入れの一札を書かせましてな、はい、これこのとおりお約言《やくげん》の子《ね》に持って参じましたから――ま、ちょっとこの戸をお開けなすって。」
「何でございますか手前共にはいっこうお話がわかりませんですが――。」
「え?」
「何の事やら皆目《かいもく》、へい。」
「げ、元七どん、しらばくれちゃいけませんよ。老人《としより》は真にする。冗談は抜きだ。」
「ええ念のため申し上げます。当家《こちら》は生薬の近江屋でござい――。」
「ささ、その近江屋さんから今日の午下りに大番頭の元七さんが見えて――。」
「元七と言えば手前でございますが、お店《たな》に唐から着荷があって、今日は手前、朝から一歩も屋外へは踏み出しませんが。」
「えっ、それでは、あの――。」
「何かのお考え違いではございませんか。」
「あっ!」
と叫んで、男が地団太《じだんだ》踏んだその刹那、程近い闇黒《やみ》の奥から太い声がした。
「元どん、開けてやんな。」
「だ、誰だっ?」
「どなた?」
内と外から番頭と男の声が重なる。
「八丁堀だ。」と出て来た藤吉。「釘抜だよ。元さん、お
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