。お帰り。朝おいで、へん、一昨日おいでだ! 誰だいいったいお前さんは?」
「誰でもいい。御主人か大番頭に会やあ解るこった。お前は小僧だろう、ただ取次ぎゃいいんだ。」
「馬鹿にしてやがる。お前は小僧だろってやがらあ。へへへのへん、だ。誰が取次ぐもんか。」
 小僧しきりに家の中で威張っていると、
「何だ、騒々しい、何だ!」
 と番頭でも起きて来た様子。
「あ、大番頭さんだ。」と小僧はたちまち閉口《へこ》んで、「だって、いとも[#「いとも」に傍点]怪しの野郎が襲って来てここを開けろ、開けなきゃどんどん[#「どんどん」に傍点]――。」
「やかましい。怪しの野郎とはなんです。お前はあっちへ引っ込んでなさい――はいはい、ええ、どなた様かまた何の御用か存じませぬが、このとおり夜更けでございますから明朝改めて御来店《おいで》を願いたいんで、へい。」
「あんたは大番頭の元七さん――。」
 戸外の男の息は喘ぐ。
「へえ、さようでして、あなた様は?」
「いや、今日はわざわざお越し下されて恐れ入りましたわい。で、早速ながら彼の一件物のこってすがの、今晩先方へこれこれこうと話をつけましたが、あんたの前だが儂もえ
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