#「ど」に傍点]えらい儲け口が、棚から牡丹餅に転げ込んで来た溢《こぼ》れ果報《かほう》。
 昼のうち、それとなく因業御殿に張り込んでいた勘弁勘次は、何を聞いたか何を見たか、いつになくあわてふた[#「ふた」に傍点]めいて合点長屋へ駈け戻ったが、それに何かの拠所《よりどころ》でもあったかして、この夜の彦兵衛の仕事にはぐっ[#「ぐっ」に傍点]と念が入り、あのとおり近江屋から神田の代地、そこから正覚橋の向うへまでお艶を尾けて、引続き藤吉を先頭に、かくも闇黒を蹴っての釘抜部屋の総策動となったのだった。
 町医らしい駕籠が一梃、青物町を指して急ぐ。供の持つぶら[#「ぶら」に傍点]提灯、その灯が小さくぼやけて行くのは、さては狭霧《さぎり》が降りたと見える。左手に聳える大屋根を望んで、藤吉は肩越しに囁いた。
「三つ巴の金瓦、九鬼様だ。野郎ども、近えぞ。」随う二つの黒法師、二つの頭が同時にぴょこり[#「ぴょこり」に傍点]と前方《まえ》へ動いた。

      三

 水のような月の面に雲がかかって、子の刻の闇は墨よりも濃い。鎧扉《よろいど》を下してひっそり寝鎮まった近江屋の前、そこまで来て三つの人影が三
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