をしてに[#「に」に傍点]組はさっさと座を立った。
後に残った藤吉、彦兵衛と顔が会うと苦り切って呟いた。
「死《くたば》っても世話の焼ける畜生だのう。」
何か彦兵衛が言おうとする時、紅葉湯《もみじゆ》へ行っていた勘弁勘次が、常吉と入れ違いに濡手拭を提げてはいって来た。
「親分え。」
と立ったままで、
「変なことがありやすぜ。」
「何だ?」
「今日は十一日でがしょう。」
「うん。」
「明日は王子の槍祭《やりまつり》。」
「それがどうした?」
「あっしの友達に小太郎ってえ小物師《こものし》がいてね――。」
「まあさ、据われよ、勘。」
勘次は坐った。すぐに続ける。
「神田の伯母んとこでの相識《しりあい》だから親分も彦も知るめえが、今そこでその小太郎に遭ったんだ。」
「なにも異なこたあねえじゃねえか。小物師だろとぼく[#「ぼく」に傍点]だろと、二本脚がありゃあ出て歩かあな。」
ちょっと膨れた勘次はあわてて説明にかかった。この先の五丁目次郎兵衛|店《だな》に同じく小物渡世で与惣次《よそうじ》という四二《やく》近い男鰥《おとこやもめ》が住んでいて、たいして別懇でこそなけれ、藤吉も彦兵衛も
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