釘抜藤吉捕物覚書
槍祭夏の夜話
林不忘

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)土蔵破《むすめやぶ》り

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)人心|噪然《そうぜん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)に[#「に」に傍点]組の
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      一

 土蔵破《むすめやぶ》りで江戸中を騒がし長い草鞋を穿いていた卍《まんじ》の富五郎という荒事《あらごと》の稼人《かせぎて》、相州鎌倉は扇《おうぎ》が谷《やつ》在《ざい》の刀鍛冶《かたなかじ》不動坊祐貞《ふどうぼうすけさだ》方《かた》へ押し入って召捕られ、伝馬町へ差立てということになったのが、それが鶴見の夜泊りで獄口《ごくぐち》を蹴って軍鶏籠抜《とうまるぬ》けという早業を見せ、宿役人の三人も殺《あや》めた後、どうやらまたぞろお膝下へ舞い戻ったらしいとの噂とりどり。
 その風評《うわさ》がいよいよ事実となって現れ、八百八町に散らばる御用の者が縁に潜り屋根を剥がさんばかりの探索を始めてからまる一月、天を翔《か》けるか地に這うか、たしかに江戸の水を使っているとの目安以外、富五郎の所在
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