なるほどな、ありそうなこった。」
 つくねんと腕組した藤吉、
「だがしかし家財道具まで引っ浚えてのどろん[#「どろん」に傍点]たあ――?」
「ち[#「ち」に傍点]と腑に落ちやせんね。」彦兵衛が引き取る。「なんぼ朱総《しゅぶさ》が嫌えだっていわば蝉の脱殻だ、そいつを担いで突っ走るがものもあるめえに。」
「のう常さん。」藤吉はにやり[#「にやり」に傍点]と笑って、「死んだと見せて実のところ、なんて寸法じゃあるめえのう、え、おう?」
 が、相応巧者な三吉が腕利きの乾児を励まして裏返したり小突いたり、長いこと心《しん》の臓《ぞう》に耳を当てたりしたあげく、とど遺骸と見極めたのだから、よもやそこらに抜かりはあるまい、常吉はこう言い張った。
「姐御ってのが食わせ物さね。しかし親分、いい女だったってますぜ。」と見て来たように、「お前さんの前だが、沈魚落雁閉月羞花《ちんぎょらくがんへいげつしゅうか》、へっへ、卍って野郎も考えて見りゃあ悪党|冥利《みょうり》の果報者――ほい、えらく油あ売りやした。」
 しゃべるだけしゃべってしまうと、何ぞ用事でも思い出したか、ぴょこり[#「ぴょこり」に傍点]と一つおじぎ
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