ちでも仏を罪するわけには行かない。それに夜明けにも間がないので、富五郎の屍体はひとまずそのまま女房へ預けておき、朝、係役人を案内して表向き首実検に供えた後、今日の内にも小塚原あたりに打捨《うっちゃり》になり、江戸お構いの女房の拾いでも遅くも夕方までには隠亡《おんぼう》小屋の煙りになろうという手筈――だったのが、それがどうだ!
「ささ、ここだて親分。」常吉は一人ではしゃいで、「これで鳧《けり》がつきゃあ、三尺高え木の空がお繩知らずに眼え瞑《つむ》ったんだからお天道様あねえも同然。ところがそれ、古いやつ[#「やつ」に傍点]だがよくしたもんで、そうは問屋じゃ卸さねえ。」
 今朝、旦那衆の伴をして改めて富五郎の死顔を見届けに出向いた影法師三吉は、昨夜の家が藻脱《もぬ》けの空、がらんどう、入れておいた早桶《はやおけ》ぐるみ死人も女房も影を消しているのに、二度びっくり蒸返しを味わった。住人《すみて》は素より何一つ遺っていず、綺麗に掃除してあったとのこと。
「仏を背負って風|食《くら》ったのか。」
 藤吉はむっくり[#「むっくり」に傍点]起き上った。
「へえ、死んでもお上にゃあ渡さねえてんで。」

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