嗅ぎ出したのが浅草馬道の目明し影法師《かげぼうし》の三吉、昨夜子の刻から丑へかけて、足拵えも厳重に同勢七人、鬨《とき》を作って踏み込んだまではいいが、奥の一間に、富五郎の屍骸《なきがら》に折り重なってよよ[#「よよ」に傍点]とばかりに哭き崩れる女房を見出しては、さすがに気の立った三吉一味もこのところ尠からず拍子抜けの体だったという。
 実もって容易ならぬ常吉の又聞き話。三吉が捕方に向う六時も前、午過ぎの九つ半に、富五郎は卒中ですでに鬼籍《きせき》に入っていたのだとのこと。その十畳には死人の首途《かどで》が早や万端|調《ととの》って、三吉が御用の声もろとも襖を蹴倒した時には、線香の煙りが縷々《るる》として流れるなかに、女房一人が身も世もなく涙に咽《むせ》んでいるばかり、肝心の富五郎は氷のように冷く石のように固くなって、北を枕に息を引き取った後だった。
 捕吏《とりて》の中には三吉始め富五郎の顔を見知った者も多かったから、紛れもなくお探ね者の卍の遺骸《むくろ》とは皆が一眼で看て取ったものの、残念ながら天命とあっては致し方がない。いろいろと身体を調べたがたしかに死んでいる。いくら生前が兇状持
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