波を分けて、橋詰のお番屋へ富五郎を縛引《しょっぴ》いた藤吉と勘次、佃《つくだ》にかかる新月の影を踏んで早くも今は合点小路へのその帰るさ。
「割方|脆《もれ》え玉さのう。」
先に立った藤吉が言う。追いついた勘次、
「だが親分、器用な細工じゃごわせんか。あっしなんか切れへくるまで与惣公とばかり思い込んでた。」
「九仭《きゅうじん》の功を一簣《いっき》に虧《か》く。なあ、そのままずらか[#「ずらか」に傍点]りゃ怪我あねえのに、凝っては思案に何とやら、与惣公と化込《ばけこ》んで一、二日|日和見《ひよりみ》すべえとしゃれたのが破滅の因、のう勘、匹夫《ひっぷ》の浅智慧《あさぢえ》、はっはっは。われから火に入る夏の虫だあな。」
「夏の虫あいいが、真《まこと》の与惣あどうなりましたえ?」
「はあてね、大川筋から隅田の淀でも今ごろあせっせ[#「せっせ」に傍点]と流れていべえが、ぶるる[#「ぶるる」に傍点]っ、酷《むげ》えこった。それにしても小物師どん、常日《じょうじつ》口が軽すぎるわさ。」
万事が富五郎の白状ではっきりした。
卍の富五郎に似も似たところから女に眼をつけられたのが百年目、誘われるまま
前へ
次へ
全25ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング