やり[#「にやり」に傍点]と笑った藤吉、「釘抜だ、藤吉だ、神妙に頂戴するか。」
ぱっ[#「ぱっ」に傍点]と昇《あが》った灰神楽《はいかぐら》、富五郎が蹴った煙草盆を逃げて跳り上った釘抜藤吉、足の開きがそのまま適《かな》ってお玉が池免許直伝は車返《くるまがえ》しの構え。
「洒落《しゃら》くせえ。」
「うぬ!」
どこに隠し持ったか、西京達磨《さいきょうだるま》の名《な》ばかり正宗《まさむね》、富五郎の手にぎらり[#「ぎらり」に傍点]鞘《さや》を走る。
「抜いたな。」
「応《おう》さ。」
呼吸と呼吸、眼配りと眼配り――面倒と見た勘弁勘次、物を打つければ中間へ飛んで邪魔になるから、かねての心得、空拳を振って抛る真似、逆上《あが》っているから耐らない、卍の富五郎|法《ほう》を忘れて切ってかかる。掻い潜った藤吉、
「御用だ!」
と一声、懐深く呑んだ十手がはっしと唸って肩を撃つ。よろめく富、畳に刺さった斬先を立て直そうとする間一髪、物をも言わず齧りついた鉄火の勘次、游《およ》ぐ体を取って腰で撥ねるのは関口流の岩石落《がんせきおと》しだ。卍の富五郎そこへ長くなってしまった。
長屋中の弥次馬の
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