ら洩れてくる夕陽の名残りへ手紙を向けて、藤吉は口の中で読み出した。
「与惣さん。」勘次が上《あが》り框《がまち》から声をかける。「先刻小太郎が見えてね、戸が締ってて、いねえようだからって先へ行きやしたよ。」
「あ、眠ってたもんだから、つい――。」
「お前さん槍祭あすっぽかし[#「すっぽかし」に傍点]けえ?」
「へ?」
「槍祭よ。明日あ王子の槍祭じゃねえか。どうした。出ねえのかよ?」
「へえ――あそうそう、なに、これからでも遅かあげえせん。では一つ――。」
 与惣次は腰を浮かした。すぐにも小太郎の跡を追う気と見える、その膝の上へ手を置いて、釘抜藤吉は冷やかに言った。
「まあさ、与惣公、待ちねえってことよ。これ、大枚の謝礼を受けたに、そう慌てくさ[#「くさ」に傍点]って稼ぐがものもなかろうじゃねえか。おう、それよりゃあこの手紙だ、読んでやるから、さ、しっかり聞きな。」

      三

「この文《ふみ》御覧のころはわたしども夫婦はおしりに帆上げたあとと思召し被下度以下御不審を晴さむとてかいつまみ申述候|大手住《おおてずみ》にてお前さんをお見かけ申しあまり夫と生うつしなるまま夫の窮場を救わ
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