んとの一芝居打ちお前さんをくわえこみ夫の手をかりて妖薬《ようやく》をあたえかみの毛をあたって死んだと見せ夫の身代に相立申候段重々|不相済《あいすまず》とは存候共これひとえに夫なる卍の富五郎を落しやらんわたしのこんたん必ずおうらみ被下間敷《くだされまじく》ただただ合掌願上奉候金子些少には候えども一夜の悪夢の代としてなにとぞお納め被下度尚当夜あたりお手入のあるべきことはわたし共の先刻承知女房のわたしでさえ取違えそうなお前さんへお引合せ下すったは日頃信ずる五右衛門さまのれいけん夫の悪運のつよいところ今ごろ探したとて六日の菖蒲《あやめ》十日の菊無用無用わたしゃ夫とふたり手に手をとり鳴く吾妻のそらをあとにして種明しは如依件《よってくだんのごとし》お前さんも生々無事息災に世渡りするよう昨夜のことを忘れずに末永く夫ともども祈上申候あらあらかしく――卍女房巴のお若より。」
読み終った藤吉、片膝立てて与惣次を見上げ、
「合点がいったか。お前は卍にそっくりだてんで、昨夜|傀儡《けえれい》に使われたんだ。」
「えっ!」
与惣次は眼を真んまるにして、
「どこかで見た面だたあ感ずりましたが、言われてみりゃあ
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