巻《すま》きのように転がされている感じがした。穴へはいるような感じもした。ただそれだけだった。
森である。林である。緑である。
氷が解けるとたちまち鬱蒼たる樹木だ。冬から真夏へ飛んだ気持ち、与惣次は草を分けて進んだ。木の間を縫って歩いた。行っても行っても一色のみどり、尽きずの森、果てしない草原、与惣次は悲しくなった。泣きながら駈け出した。子供のように涙が頬を伝わった。拭いても拭いても留途なく流れた。溜って溢れて淀んで、そこに一筋の川となった。泪《なみだ》の河ではある。
満々たる大河だ。
向岸に茅葺《かやぶき》の家が立っている。よく見ると小田原在の生家だ。三年前に死んだ白髪《しらが》の母が立っている。小手を翳《かざ》して招いている。弟もいる。妹もいる。幼馴染みもいる。みんなで与惣次を呼んでいる。
与惣次は答えようとした。声が出なかった。自分と自分が哀れになって、彼は根限り哭《な》き喚《わめ》いた。後からあとからと大粒な涙がこみ上げて来た。それが河へ落ちた。水量《みずかさ》が増した。浪となってひたひた[#「ひたひた」に傍点]と与惣次の足を洗った。思いきって与惣次は跳び込んだ。
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