が言った。「見る気があったら見ておやんなせえ。」
顫える足に下駄を突っかけて、若僧はべそ[#「べそ」に傍点]を掻いて、駈け出そうとした。提灯屋が押えた。
「殺された女の情夫ってえのを、あんたは見たことがありますかえ?」
「見たことはありません、見たことはありません。」
「提灯屋、放してやれってことよ。」藤吉が嘯いた。「犯人なら先刻引き揚げてあるんだ。」
と、その言葉の終らないうちに、
「親分。」
裏口に大声がして、五尺八寸の勘弁勘次の姿が浮彫のようにぬう[#「ぬう」に傍点]っと現れた。
「勘か? 首尾は?」
「上々吉でさあ。」と弥造を振り立てて、「二つ三つ溜りを当るうちに、三軒家町の真中でぱったり出遇った。」
「今朝の癩病人《かってえぼう》にか?」
「あいさ。」
「うん。」
「あん[#「あん」に傍点]畜生、あんな面になりゃがったもんだから、秋月佐渡様のお部屋からずら[#「ずら」に傍点]かってくるところを、勘弁ならねえと掴めえて町内組へ預けて来やした。」
「風呂敷包みを抱えてたろう?」
「へえ、牛蒡の――。」
「干葉《ひば》と生姜《しょうが》の黒焼。」
と彦兵衛が後を引き取る。眼
前へ
次へ
全28ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング