なさるってんで、親分、奴あ近江屋へ行ったに相違ねえぜ。」
「うん、牛蒡《ごぼう》買《か》いにか。」
「あい、牛蒡の干葉《ひば》と黒焼の生姜《しょうが》――。」
「鑑識《めがね》通りだ、はっはっは、彦御苦労だったのう。」と藤吉は哄笑して、
「そこで、佐平どん、お前に訊くが、今朝、墓場の向うの木の下でお新さんの屍骸を見つけ、この坊さんや引いては自身が、寺社方《じしゃかた》の前へ突ん出されめえと、これ、この棒で、」と手の青竹を振って見せて、「屍骸の上に覆せてあった小枝を払い、仏を石垣から蹴落して半兵衛さんを決め込んでたなあ、足袋の鞐《こはぜ》と言い、それ、お前のぱっち[#「ぱっち」に傍点]の血形といい、佐平どん、あっしゃあ[#「あっしゃあ」に傍点]、お前の業《わざ》と白眼《にら》むがどうでえ?」
 佐平は首垂《うなだ》れて股引の血を見詰めながら、
「へえ、森元町から新棺《あらかん》の入りがあるちゅうこって、今朝七つ半過ぎに俺が墓あ掃除に出張りましたところが――。」
「お新!」若い納所《なっしょ》が狂気のように叫び出した。「おほ、お、お――しん!」
「屍骸は原っぱだ。」憮然《ぶぜん》として藤吉
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