釘抜藤吉捕物覚書
梅雨に咲く花
林不忘

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)黄表紙《きびょうし》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)笠間右京|暗夜白狐退治事《あんやにびゃっこたいじること》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)に[#「に」に傍点]組の
−−

      一

「ちぇっ、朝っぱらから勘弁ならねえ。」
 読みさしの黄表紙《きびょうし》を伏せると、勘弁勘次は突っかかるようにこう言って、開けっ放した海老床の腰高《こしだか》越しに戸外《そと》を覗いた。
「御覧なせえ、親分。勘弁ならねえ癩病人《かってえぼう》が通りやすぜ――縁起《えんぎ》でもねえや、ぺっ。」
「金桂鳥《きんけいちょう》は唐《から》の鶏《にわとり》――と。」
 町火消の頭、に[#「に」に傍点]組の常吉を相手に、先刻から歩切《ふぎ》れを白眼《にら》んでいた釘抜藤吉は、勘次のこの言葉に、こんなことを言いながら、つ[#「つ」に傍点]と盤から眼を離して何心なく表通《おもて》の方を見遣った。
 法被姿《はっぴすがた》に梵天帯《ぼんてんおび》、お約束の木刀
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