この寺との間柄――。」
「はい。」と若い僧侶は顔色も蒼褪《あおざ》めて、
「はい、もうこうなりますれば、何事も包まず隠さず申し上げますが。」
「うん、好い料簡《りょうけん》だ。」
「実は、面目次第もござりませぬが、親分さま、実のところ――。」
と打ち開けた彼の話によると、若い身空で朝夕仏に仕える寂しさから、いつしか彼は笠森稲荷の茶屋女お新と人眼を忍ぶ仲となり、破戒の罪に戦《おのの》きながらも煩悩の火の燃えさかるまま、終いには毒食わば皿までもと住職の眼を掠めては己が部屋へ引き入れ、女犯《にょぼん》地獄の恐しい快楽《けらく》に、この頃の夜の短かくなりかけるのをうたた託《かこ》っていたのであった。
元来お新という女は江戸の産れでなく、大宮在から出て来て間もないとのことだったが、田舎者にしてはちょっと渋皮の剥《む》けたところから、茶屋を出す一、二日うちに早くも引く手|数多《あまた》の有様だったけれど、根が浮気者にも似ずそれらの男を皆柳に風と受け流していたのは、当初の悪戯気からだんだん深間へ入りかけていたとは言えけっして随全寺の若僧にばかり女を立てていたからではなく、全くは、大宮から一緒に逃
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