ずきっとなった提灯屋は、一歩前へ詰め寄った。が、出家は怪訝《けげん》な面持ち。
「屍骸――とは何の死骸?」
「へえ、お新さんの屍骸で――。」
「えっ! あの、お新!」
「のう、誰の足袋だか聞かせて下せえやし。」
「はい、足袋はたしかに寺男佐平の所有《もの》。」
「佐平どんはどこに?」
「あれ、今し方までそこらに――佐平や、これ、佐平や。」
炭俵なぞの積んである一隅に、がさがさ[#「がさがさ」に傍点]という人の気配がした。
「お!」
藤吉は素早く眼くばせする。心得た提灯屋が、飛んで行ったと思う間もなく、猫の仔みたいにひきずり出して来た小柄の老爺、言うまでもなく随全寺の寺男佐平であった。
「野郎逃がしてなるか。」有頂天《うちょうてん》になった提灯屋亥之吉が、なおも強く佐平爺の腕を押えようとすると、
「こう、提灯屋、ここは寺内だ。滅多な手出しをしてどじ[#「どじ」に傍点]踏むなよ。」
とにやにや[#「にやにや」に傍点]しながら、また藤吉は僧へ向き直って、
「この人が佐平どんで足袋の主、さ、それはそれとしてもう一つ伺いてえのは、お新[#「お新」に傍点]と呼捨てにするからにゃあ、彼の姐御と
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