黄色い花を矯《た》めつすがめつ眺めていたが、ぐい[#「ぐい」に傍点]と裾を引上ると、浅瀬でも渉る時のような恰好でやたらにそこらじゅうを歩き始めた。気のせいか、雨に洗われた雑草の形が乱れて、黄色い花をつけた小枝が一面に折れ散っている。そこから本堂との間は広くもない墓場になっていて、石塔や卒塔婆《そとば》の影が樹の間隠れに散見していた。
勘次も提灯崖も、ただ猿真似のようにその黄色い花の咲いている木の廻りを見渡した。二尺近くも延びている草の間から、青竹の切れを探し当てた藤吉は、暫時それで地面の小枝を放心《ぼんやり》掻き弾《はじ》いていたが、来る途中彦兵衛から受け取った小さな金物を袂から出して眺め終ると、やがてすたすた[#「すたすた」に傍点]庫裏《くり》の方へ向って歩き出した。後の二人は、狐につままれたようにその尾に随いた。
と、何事か思い出したように藤吉が勘次へ囁いた。勘次はびっくりして聞き返した。藤吉の眼が嶮しく光った。勘次はそそくさ[#「そそくさ」に傍点]と寺を出外れると、そのまま屋敷町の角へ消えて行った。
四
「不浄仏《ふじょうぼとけ》たあ言い条――。」
薄暗い庫
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