点長屋へ迎えの使者に立ってもらったのだった。
三
狭い道路を埋めた群集がざわめき渡った。
勘弁勘次と彦兵衛を引具して尻端折った釘抜藤吉は、小股に人浪を分けて現場へ進んだ。
「お立会いの衆、御苦労様でごぜえます。」
こう言って挨拶した時、彼の短い身体はすでに二つに折れて屍骸の上へ屈んでいた。致命傷ともいうべき咽喉の刀痕へ人差指を突き込んでみて、その血の粘りを草の葉で拭うと、今度は指を開いて傷口の具合いを計った。次に、石のように堅い死人の両の拳を勘次に開かせて何の手がかりも握っていないことを確めた。そして、最後に、ちょっと女の下半身を捲って犯されていないらしいと見届けた藤吉は、
「ふうん。」
と唸って腰を延した。眼を閉じて腕組みしている。
「遠い所をお願え申しまして、なんともはや――。」提灯屋が口を入れた。が、藤吉は返事どころか身動《みじろ》ぎ一つしない。
「此女《これ》の人別がわかりやしてな。」と提灯屋は言葉を継ぐ。「へえ、この先の笠森稲荷の境内に一昨日水茶屋を出したばかりのお新てえ女で。――どこの貸家《たな》かあ知りませんが、身寄りも葉寄りもねえ――。」
と言
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