らどろん[#「どろん」に傍点]をきめただけのことよ。まあ、あまり遠くへも草鞋は穿くめえ、三吉、犯人《ほし》を挙げるのは手前の役徳、あっし[#「あっし」に傍点]ゃあこれから海老床さ、へっへ。えれえおやかましゅうごぜえやした。皆さん、御免下せえやし。」
藤吉の尾《しり》につきながら勘弁勘次は、彦兵衛を返り見た。
「彦、紙屑籠を忘れるなよ。」
葬式彦兵衛は眼だけで笑って口の中で呟いた。
「ああ、身も婦人心も不仁慾は常、実《げ》に理不尽の巧《たくみ》なりけりとね。」
四
深川木場の船宿、千葉屋の二階でお銀栄太の二人が影法師三吉手下の取手に召捕られたのは、翌る四年も秋の末、利鎌《とがま》のような月影が大川端の水面《みなも》に冴えて、河岸の柳も筑波颪に斜めに靡《なび》くころであった。
白洲へ出てはさすがの二人も恐れ入って逐一白状に及んだ。
従前から二人の仲を臭いと見ていた助三郎は、嫌がるお銀を無理にしばらく江戸を離れてるようと、甲府を指して発足したが、小一町も来ない内に後から栄太に追いかけられて、世間の手前途上の口論《いさかい》が嫌さに自宅へ引っ返したのであった。栄太の難
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