ら見ると、お銀さんてえのは、四尺七、八寸の優形で女の身の持ち方知らずに刃を下へ向けたところから、左手利きをそのまま出して刀痕《あと》がの[#「の」に傍点]の字――。」
「おう、親分え。」と、戸口で大声がした。
「彦か、いいところへ帰って来た。して首尾は?」
「なに、お前さん。」と吉原から帰って来た彦兵衛は、小気味よさそうに独特の微苦笑を洩らしながら言葉をつないだ。
「一文字の歌と栄太の野郎とは、馴染みどころか、二度《うら》を返したばかりの浅え仲だってまさあ。そんなことより耳寄りなのは、栄太の二の腕に――。」
「お銀|命《いのち》の刺青か。」
と藤吉が後を引き取った。
「えっ。」
と叫びながら影法師三吉は兎のように隅へ飛んで行って、めりめりと死骸の袖を破った。杵屋助三郎の腕は女のように白くて黒子《ほくろ》一つなかった。
人々は愕然と顔を見合った。
「栄太とお銀で仕組んだ芝居だあな。お銀が戸外から夫の助三郎を突いた後で、栄太の野郎がはいり込んで、内部《なか》から全部戸締まりし、出刃に血を塗って捨てておいたり、煮え湯をかけてそっぽ[#「そっぽ」に傍点]をむいたりしやがって、手前は天井か
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