のけた。
「なにさ、今すぐ解るこったが、飛脚を立てるなら三途川《さんずのかわ》の渡し銭を持たしてやらなくちゃなるめえって寸法よ。なあ三吉、手前も合点長屋の巣立ちじゃねえか、よっく玉を見ろい、そりゃあ、お前出刃の傷じゃねえぜ。匕首だ。九寸五分の切れ味だい、玉の傍に出刃を置いたところが、はははは、これが真物《ほんもの》の小刀細工ってもんだろうぜ。一昨日からの仏ってことは肌の色合いと血の粘りで木偶《でく》の坊にも解りそうなもんだ。昨日はあの雨で一日|発見《めっか》らずにすんだだけのことよ。」
そこへ勘次が息せききって帰って来た。
「親分、あの板を剥がして裏天井の明《あか》り取りからずら[#「ずら」に傍点]かったに違えねえ。埃の上に真新しい足跡だ。」
「えっ。」と並居る連中は驚きの声を揚げた。
「ふん。大方そんな狂言だろうと思ったところだ。」
と藤吉は改めて人々の顔を見渡した。
「この界隈に左手利きはいねえか。」
伊勢源と幇間が一緒に叫んだ。
「お銀さん!」
「違えねえ。」
と藤吉は笑った。
「格子の外から刺しておいて戸へ足をかけて刃物を抜いたことは格子の瑕でも見当はつくが、その足跡か
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