、四の五の言う筋合いはあるめえのう。」
「四の五のなんぞと滅相もない。親分のお役に立つなら、はい、何枚でも――。」
と伊勢源は狼狽して言った。
藤吉は会心らしく微笑した。
「勘、行って来い。」
「合点だ。」
声と共に勘弁勘次はほど近い杵屋の家へ出掛けて行った。
後で藤吉は人々の口から、助三郎夫婦がときどき犬も食わない大喧嘩をしたことや、死んだ栄太は助三郎の実の兄で、ちょくちょく杵屋へ出入りしていたが、穏和な弟とは似ても寄らず、箸にも棒にもかからない悪党であったこと、栄太が自害した一昨日の暮れ早々、助三郎夫婦は女房お銀の実家甲府在へ旅立ちしたことなど、それとなく聞き出したのであった。栄太の自殺が一昨日の真夜中に行われたとすれば、戸外からはいった形跡のない以上、助三郎夫婦の発った時栄太はすでに留守宅にいたはずであった。が、そもそも何のために自分自身の腹を突いたか――。
「甲府の助さんとこへ飛脚を立てずばなるまい。」と、伊勢源が一座の沈黙を破った。
「はっははは――。」
突然藤吉が哄笑した。一同は唖然として彼を見守った。
「まずまずその心配にも当るめえ。」
と彼は面白そうに言って
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