と、死んだ栄太と親交のあったという幇間《たいこもち》桜井《さくらい》某《なにがし》が、土間隅に菰を被せた栄太の死骸を見返りながら何かしきりに故人の噂でもしているらしかった。そこへ勘次を伴れて釘抜藤吉は眼で挨拶してはいって行った。
「三、久し振りだのう。」
 言いながら彼はすでに菰をはぐって、死体を覗き込んでいた。一同は事新しくその周囲へ集った。不愉快そうな三吉の眼光《まなざし》を受けても、袖の先で鼻の頭を擦《こす》ったまま勘次はけろりと澄ましていた。肉の塊のように焼け爛れた死顔をしばらくみつめていた藤吉は、やにわに死人の袖を二の腕まで捲くり上げながら、背後の幇間を顧みて口から出任《でまか》せに言った。
「この栄太さんの馴染みってのは、たしか仲の町岩本楼の梅の井|花魁《おいらん》だったけのう。」
「なんの、」と幇間は拳を打つような手つきを一つしてから、
「弘法も筆の過り、閉口へいこう。一文字の歌右衛門姐さんと二世を契った仲――。」
 皆まで聞かず、藤吉は葬式彦兵衛に命令《いいつ》けた。
「手前吉原まで一っ走りして、その歌右衛門さんとやらに知らせて来い。――それから。」
 と彦兵衛の後を追
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