、何やつ?」
 がばとはね起きてみると、ナニ、蹴ったんじゃアない。若い伊賀侍の一人が、何かに驚きあわてて部屋へとびこんでくる拍子に、大之進の胴ッ腹につまずいたんです。
「ナ、何をする」
「何をするじゃアございません。たいへんです。たいへんです! ふしぎなこともあるもので、いま私が、朝早く起きて、庭で……」
 と、その言うところは、こうだ。
 この若い弟子、いつも恐ろしく寝坊なんだが、今朝にかぎってすこし早起きをして、庭へ出てラジオ体操――じゃアない、木剣を振っておおいに三文のとくを味わおうとしていると、
「これが驚かずにいられますか。あのお庭の根あがり松に、何がぶらさがっていたとおぼしめす、高隊長殿」
「まさか、天人の羽衣でもあるまい」
 まわりに寝ていた連中も、ゴソゴソ起き出て、
「首くくりでもブラさがっていたのか」
「何を不吉なことを申す」
 若侍は躍起になって、
「天人の羽衣よりも、もっと貴重な品ですぞ、隊長殿。こけ猿の壺に縄がついて、あの根あがり松の下枝に、ひっかかっておるではござらぬか。それが、さわやかな朝風に吹かれて、ブラーリ、ブラリ……」
「寝ぼけたな、貴様」
「夢にもこ
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