謀叛骨の高いのが現われて、天下の騒ぎを起こさないともかぎらない。それを防ぐために、財産を吐き出させようと、大金のかかる日光大修営の籤《くじ》を落としたのだけれど。
今は、あべこべに。
将軍様が機密費を出して、それで名家柳生を救わなければならないことになった。
これじゃアまるで、天へ向かって唾をしたようなもので、あの金魚籤で死んだ不幸な金魚が、ざまアみやがれと言ったといいます。
だが、ただ公儀から金がおりたというのでは、柳生も体面上受けとりにくいし、他の諸侯へのきこえもある。
愚楽老人は、せかせかと手をたたいて、お小姓を呼んだ。
「料紙と硯箱、それに、線香を一本持ってきてくださらぬか」
六
それから二、三日した明け方のことです。
麻布林念寺前の、柳生の上屋敷。
その邸内の一角、尚兵館《しょうへいかん》と名づけられた道場に、わざわざ伊賀から下向した壺探索の一隊を引きつれて寝とまりしている高大之進――イヤ、驚きました。
驚いたわけです。
春眠|暁《あかつき》を覚えず……夢うつつの境で、ウトウトとしていた横っ腹を、イヤというほど蹴りつけた者がある。
「ヤッ
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