、ありそうなことじゃわい」
 どうやら、三人の話の模様では。
 この壺もほんとうのこけ[#「こけ」に傍点]猿かどうか、危くなってきた。
 そうすると……。
 あの、最初に婿入りの引出物として、伊賀の暴れん坊が柳生の郷《さと》から持ってきたあれ[#「あれ」に傍点]も、果たして本当のこけ[#「こけ」に傍点]猿? もしあれが真のこけ[#「こけ」に傍点]猿の茶壺でないとすれば、本物はまだ柳生家にあるのか?――
 無言の三人のうえに、城中の夜の静寂が、重い石のようにおおいかぶさる。
「ま、壺の真偽は第二といたしまして、日光を眼の前に控えて、柳生は今や死にもの狂いのありさまでございますから、御造営に必要なだけの金は、さっそく、それとなく授けますように、お取り計らいを願いたいと存じまする」
 越前守の言葉に、吉宗と愚楽は、われに返ったよう。
「ウム、それはそうだ。では、さきほどの案を、取り急ぎ実行するように」
 日光着手の日が近づいている今となっては、何よりも、まず財政的に柳生をたすけて、とにかく、御修理に着手させるのが、目下の急務である。
 隠してある財産などがあっては、その子孫に、いつなんどき、
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