ありましょう」
吉宗公が、
「どうするとは?」
「イエ、さしあたっての日光修営の費用――柳生は、この壺だけを頼りにしておりますのに、武蔵国とだけでは、まるで雲をつかむような話。こうなると、剣にかけては腕達者揃いの柳生藩、苦しまぎれに天下をさわがせねばよいが」
「上様」
と改まった声で、両手をついたのは、越前守忠相、
「柳生を救うため、また、日光御造営に関して、不祥《ふしょう》な出来事を防ぎますために、ここは上様、一計が必要かと存じますが」
「事、権現様の御廟に関してまいります」
愚楽老人も、そばから口を添えるのを、聞いていた吉宗公は、ややあって、
「ウム、みなまで言うにはおよばぬ。そのように取りはからえ」
「ハッ。それでは、日光に必要なだけの金額を……」
「そうじゃ、どこかに埋めて――」
「その所在を図に認めて、これなる壺に納め、それとなく伊賀の柳生の手へ送りとどけますことに……」
御寝の間に謀議は、いつまでも続きます。
五
「しかし、上様……」
愚楽老人は何事か思いつめたように、
「ちょっと、その、張りこめてあった地図を拝見――」
「誰が見たとて同じことじ
前へ
次へ
全430ページ中90ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング