に左右から首をさしのべて、
「いや、それはたいへんなことでござります。せっかくここまでこぎつけたのに、肝腎の個所が虫食いとは……?」
「図のほうではわかりませんか」
文字の下に、小さな地図がついているのだけれど、それはいっそう虫のくった跡がはげしく、ほとんど何が書いてあるかわからない。
消えた線を、指先でたどっていた吉宗、
「これはハッキリ読めたところで、たいした頼りにはならぬであろう。ほんのその一個所の地図にすぎぬから……ホラ、この、山中の小みちが辻になっておるところに立って、右手を望めば、二本の杉の木があって――あとはどうにも読めぬが、苔むした大いなる捨石《すていし》のところより、左にはいり……とある」
「山の中の小みちが四つに合し、その辻から二本の杉が見えて、捨て石があって……これが武蔵国のどことも知れぬとは、もはや探索の手も切れたも同然」
暗然たる愚楽老人の言葉に、越前守は、膝をすすめて、
「しかし、埋宝のあることは、事実でござりますな。だが、大さわぎをしたこけ[#「こけ」に傍点]猿の茶壺は、ただ、これだけのことであったのか」
愚楽老人は憂わしげに、
「柳生はどうするで
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