無言ののちに、声に出してその文字を読んだのは、吉宗公であった。
「常々あ○○心驕○て――」

       四

「常々あ○○心|驕《おご》○て湯水のごとく費《つか》い、無きも○○なるは、黄金なり。よって後世一○事ある秋《とき》の用に立てんと、左記の場所へ金八○○両を埋め置くもの也――」
 そこまで読んだ八代公は、紙片から顔をあげて、のぞきこんでいる愚楽と越前守を見まわした。
「ところどころ虫が食っておって、よく読めぬ。わからん個所には字を当てて、判読せねばならぬが」
 横合いから、愚楽老人がスラスラと読んだ。
「常々あれば心|驕《おご》りて湯水のごとく費《つか》い、無きも同然なるは黄金なり。よって後世《こうせい》一|朝《ちょう》事《こと》ある秋《とき》の用に立てんと、左記の場所へ金――サア、これはわからぬ。八百万両やら八千万両やら、それとも八十五両やら、とにかく、八の字のつく大金」
「シテ、その埋ずめある場所は?」
 忠相の問いに、八代公は、その古びた紙を灯にすかして見ながら、
「武蔵国――アア、どうしたらよいか。このとおり虫が食っておってあとは読めぬ」
 愕然として他の二人は、同時
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