しく、糊と紙のあいだにいつのまにか虫がわいたとみえて、模様のような虫食いの跡が見えてきた。それと同時に、息づまるような三人の力の入れ方もいっそうせまって、今はもう、部屋の空気そのものが固化したよう……緊張の爆発点。
 と! そのときでした。
「オヤッ!」
 と、愚楽老人が叫んだのです。そして、手の小刀をほうり出して、
「あった! 出てきた! ホレ、上様、越州、字が書いてある? ソラ、この下の紙に、うっすらと字が見えまするぞ」
「ドレドレ! ホホウ、なるほど、何やら墨の跡がすけて見えるわい」
「御老人、早く、その上の紙をお取りなされ」
「損じてはならぬぞ」
「心得ております。ここが千番に一番の掛け合い――」
 愚楽老人は、紙の端にそっと爪をかけて、静かに、しずかに剥《む》きはじめた。上の奉書が注意深く剥がされるにつれて、下から出てきたのは、何やら文字と地図らしいものの描かれた、一枚の古びた紙!
 こけ猿の壺の秘密は、いま明るみへ出ようとしている。
 何百万、何千万両とも知れない。柳生の埋宝!
 老人の手が、上の紙を剥ぎ終わりました。六つの眼が、凝然とひとつに集まる。
 押しつぶしたような
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