さか離れた森かげの納屋では、峰丹波の下知で、いよいよ夜中の仕事にとりかかることになった。
一同は二手にわかれた。丹波とお蓮様は数名の者に、源三郎の身がわりの死骸《なきがら》をかつがせて、泣きの涙の体よろしく、ここからただちに本郷妻恋坂の司馬道場へ帰る。
ほかの連中が、小屋にある農具を手に、大急ぎで、あの左膳と源三郎の穴を埋めてしまおうというので。
いのち綱《づな》
一
「ほんとに、おめえみたいに親不孝な者ったら、ありゃアしない。その年になって嫁ももらわず、いくら屑屋《くずや》だからって、親一人子ひとりの母親を、こんな、反古《ほご》やボロッ切れや、古金なんかと同居さしといてサ、自分は平気で暇さえあれァ、そうやって酒ばっかりくらっていやアがる」
ボーッと灯のにじむ油障子の中路地のなかの一軒に、いきなり、こう老婆のののしる声がわいた。
ここはどこ?
と、きくまでもなく。
浅草《あさくさ》竜泉寺《りゅうせんじ》、お江戸名所はトンガリ長屋。
その、とんがり長屋の奥に住む、屑竹《くずたけ》という若い屑屋の家《うち》だ。
母ひとり子ひとりというとおり、いま
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