あ、どうしたらいいだろうなア」
 チョビ安は気がふれたように、地団駄《じだんだ》をふむだけだ。
 とやかくするうちに――はや、夜。
[#ここから3字下げ]
「むこうの森の権現さん
ちょいときくから教えておくれ
あたいの父《ちゃん》はどこへ行った……」
[#ここで字下げ終わり]
 うらさびしい唄声が、夜風に吹きちらされて、あたりの木立ちへこだまする。
「ほんとに、あたいほど不運な者があるだろうか。産みの父《ちゃん》やおふくろの顔は知らず、遠い伊賀の国の生れだということだけをたよりに、こうして江戸へ出て――」
 チョビ安、穴のふちに小さな膝ッ小僧をだいてすわりながら、自分を相手にかきくどく言葉も、いつしか、幼い涙に乱れるのだった。
「こうして江戸へ出て、その父《ちゃん》やおふくろを探していたが、なんの目鼻もつかず、そのうちに、この丹下左膳てエ乞食のお侍さんを、仮りの父上と呼ぶことにはなったものの、その父上も、とうとう穴の中に埋められてしまっちゃア、もぐら[#「もぐら」に傍点]の性でねえかぎり、どうも助かる見込みはあるめえ」
 ちょうどチョビ安が、こんな述懐にふけっている最中。
 ここをいさ
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