けて役人どもが、出かけてくるところだと言いふらしたら、かかりあいになるのを恐れて、そのまま逃げちっていった。アハハハハハ」
まったく。
高大之進《こうだいのしん》の尚兵館組《しょうへいかんぐみ》と、結城左京《ゆうきさきょう》等の道場立てこもりの一統とは、底も知れない穴へ左膳がおちこんだのをこれ幸いと、泣きさけぶチョビ安をそのままに、そうそう引きあげてしまったのだ。
この物置小屋から出ていった司馬道場の弟子どもが、町人、百姓姿の口々から、役人きたるとさけんだのに驚いて。
また、その左膳のおちた地中に、自分らの探しもとめる主君柳生源三郎が、同じくとじこめられていようとは、夢にも知らずに。
「父上! あがってこられない? 父上!」
と、それからチョビ安は、こう叫びつづけて、穴の周囲を駈けてまわっているうちに。
めっきり長くなった日も、ようやく夕方に近づき、三方子川の川波からたちのぼる薄紫の夕闇。
穴は、ポッカリ地上に口をひらいて、暗黒《やみ》をすいこんでいるばかり……のぞいてよばわっても、なんの答えあらばこそ。
子供の力では、どうすることもできないのだ。
「父《ちゃん》! あ
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