ム、とうなった吉宗様、壺を手近に引きよせて、つくづくとごらんになり、
「りっぱな作《さく》ゆきじゃなあ。品行といい、味わいといい、たいしたものじゃナ」
幾金《いくら》ぐらいだろう……そんな骨董屋みたいなことはおっしゃいません。
四
「あけてくやしき玉手箱――スウッと煙が出て、この吉宗、たちまち其方《そち》のような老人になるやもしれぬぞ」
ごきげんのいいときは、お口の軽い八代様、そんなことをおっしゃって、愚楽へ笑いかけながら、パッと壺の蓋をとった。
何もはいっていない。
もとより、煙も出ない。
拍子抜けのした玉手箱……吉宗公は壺をひっくりかえして、底をポンポンとおたたきになっては、首をかしげてしきりに音を聞いてらっしゃる。縁日で桶を買うようなかっこうだ。底が二重になっているかどうか、それをあらためているのです。
越前守と愚楽は、笑いの眼をかわしたのち、愚楽が、
「どうです、上様。底に種仕掛けはございますまい」
「イヤ、これは降参いたした」
吉宗はそう言って、壺を畳へ置きなおし、
「この壺に秘図が入っておらんとなると、柳生の埋宝それ自身がちとあやしい話じゃな
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