がたきしあわせに存じまする。いつもながらごきげんうるわしく拝したてまつり、恐悦至極に存じまする」
つつしんで御挨拶申し上げているのに愚楽老人は、そういう儀礼はいっさい抜きで、いきなり、友達かなんぞのように将軍様へ話しかけて、
「どうしてこの壺が、越前の手にはいりましたか、そこらの筋道は、なにとぞおたずねなきよう」
「ホホウ、例の大金の所在を知るこけ猿とやら――どれどれ」
乗り出す吉宗公……愚楽老人はまるで自分が悪戦苦闘ののち、やっと手に入れたような顔つきだ。
三
吉宗公はせきこんで、
「愚楽、越前。お前たちはもうその壺をあけて見たであろうな」
「ハッ」
と越前は平伏して、
「ところが、紙片などは中にはいっておりません――」
言いかけるそばから、愚楽老人は、まるでお風呂場で背中を流しているときのように、気やすに膝をすすめて、
「それが、上様、ふしぎじゃあございませんか。何もはいっていないんで」
吉宗公は腕組みをして、眼をつぶった。
「フウム、はいっておらぬ。スルト、柳生の埋宝というのは、ひとつの伝説……いや、とんでもない作りごとにすぎなかったのかな」
ニヤ
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