もあけてみました」
「して、紙片は? 埋宝の所在《ありか》を示す古図は?」
 たたみかけて、つめよるごとき愚楽老人の顔を、越前守はじっとみつめて、
「中にはござらぬ」
「中にない?――壺の中にない……とすると?」
「サ、そこでござる、御老人。壺の中にないとすれば?」
「壺に物をかくすとすれば、壺の中にきまっておる。その壺の中にないならば、こりゃ――ないのであろう」
「と、拙者も最初は考えましたが……」
「待った!」
 愚楽老人、大きな手をひろげて、越前守の言葉をさえぎった。そして、ハタと膝をうった。
「ハハア、そうか。なるほど、そうか――」

       二

 夜詰めの近侍たちが、お次の間にしりぞいてから、もうよほどになる。上段の間に御寝《ぎょしん》なされた吉宗公は、うつらうつらとして夢路にはいろうとしていた。
 と、いくつか間《ま》をへだてた遠くの部屋で、なにか押し問答をしているような、大きな声がする。
 上様《うえさま》に取り次いでくれ、いや、お取り次ぎ申すわけにはまいらぬ……そんなことを言い合っているようだ。
 はじめは、水の底で風の音を聞くような、ボンヤリした気持でいた将軍
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