るで最期の宣告をくだすように、その川底が破れ落ちたのである……すさまじい勢いで。
 土砂と川水とが、一度にドッと落ちかかったのだが、そのあおりで流れ落ちる水に巻かれながら、左膳は無意識に三方子川へ浮かびあがったのである――たった一つの左腕に、ぐったりとなっている源三郎のからだを、しっかり抱きかかえたまま。
 これが最期と思ったのが、かえって、生へひらく唯一の道だったのだ。
 流れただようまも、左膳は源三郎をはなさなかった。この家の親爺の六兵衛が、夜の川釣りに、その下流に糸を垂れていて、浮きつ沈みつしてくる二人を見つけるが早いか、近所の者の手を借りて舟を出したのである。
 救い上げたときは、左膳も源三郎も、すっかり意識をうしなっていた。隻眼隻腕の異様な浪人姿と、由緒《ゆいしょ》ありげな美男の若侍と今夜の夜釣りには、ふしぎな獲物があったものだと、六兵衛はそのまま、二人をこの自宅に運びいれて、まず、濡れた着物を着かえさせ、一晩ねんごろに看病して、……サテ、この朝である。
「お同伴《つれ》はまだ気を失っておるようじゃの。まあ、こんなところだが、ゆるゆる逗留《とうりゅう》して、からだの回復をお待
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