小父ちゃんだろう!
 が。
 そのとたんに。
 お美夜ちゃんの聞いた声は、ビックリするほどやさしい、親しみぶかいものであった。
「そちら三人は、さがっておるがよい」
 お美夜ちゃんをとりまいていた大作、重内、作三郎の三人は、跫音もなく庭の闇へ消えこんでゆく。
 意地のわるい三人のお武家さん――と思っていたものの、サテ、こうしてひとり取り残されて、お奉行様と相対《あいたい》になってみると、恐ろしさから、その三人が急に恋しくなって、
「小父ちゃんたち、行っちゃアいや、ここにいて!」
 とお美夜ちゃん、泣き声をはなってあとを追おうとする。
 しずかな含み笑いが、お広縁の上から。
「コレ、何もこわがることはない。この縁側へ腰をかけて、わしに、その壺というのを見せてくれぬか」
 灯をしょった顔を振りあおいで見ると、眼尻に長いしわをきざんだ、柔和な笑顔……ほんとに、これが南のお奉行様かしら?
 と、お美夜ちゃんはあやしみながら、
「あのね、あたいね、浅草のとんがり長屋から来たの」
 と、一度安心すると、子供だけにもう人見しりをしないので。
 壺をかかえて、越前守と並んで、縁側にこしかけたお美夜ちゃ
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