んに、障子をとおしてほのかな燭台の灯が踊る。
忠相はにこやかに、片手で壺の風呂敷をときながら、
「ウム、そのトンガリ長屋なら、おまえをここへ使いによこした人は蒲生泰軒《がもうたいけん》……泰軒小父ちゃんであろう」
「うん、よく知ってるね、この壺をお奉行様に、お渡しするようにって――」
「おお、よしよし」
忠相はお美夜ちゃんの頭をなでて、
「よくこの夜中に、ひとりでお使いにこられたな」
言いつつ、パラリと風呂敷をとき、桐箱の紐をほどき、箱の蓋《ふた》をとり、ソッと抜き出した壺から、スガリをはずして、もう、その手は壺の蓋にかかっている。
「おまえの名は、なんという」
「あたい、作《さく》お爺《じい》ちゃんとこのお美夜ちゃんっていうんですの」
壺の蓋をとった忠相は、そっと中をのぞいて見た。
部屋の洩れ灯なので、よくは見えない……。
なんだか底のほうに赤ちゃけた紙きれが入っているようでもあり、また、何もないようでもあり――。
いずれ、後で明るい部屋で、ユックリ見直すことにしようと、忠相はそのまま蓋をかぶせつつ、
「ウム、お美夜ちゃんか。かわいい名じゃのう」
「ええ、みんながそう言
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