んだった。
重内も作三郎も、弱りぬいたあげく、用人部屋へ引っぱってきて、伊吹大作にまでその旨《むね》を通じたというわけ。
この壺を取られてはならないと思うから、お美夜ちゃんはもう一生懸命、両手でしっかり箱をかかえて泣きながら、その泣く合間合間《あいまあいま》に、あちこち見まわしたり、ちょっとキョトンとしたり、それからまた、急に声をはりあげたりして、畳のかたい用人部屋に待たされていると、
「コレコレ、お奉行様がお会いになるという。果報《かほう》なやつだ。こっちへ来い」
大作、重内、作三郎の三人にとりかこまれたお美夜ちゃん、
「あたい、とうとう罪人になったの?」
お爺ちゃんにまた会えるかしら……などと情けない思い、飛び石につまずきつまずき、広いお庭の奥へ――
三
縁の高い書院《しょいん》造りの部屋が、眼の前にある。
その明るい障子が、静かに中からあいて、デップリした人影が現われたのを見たとき、庭の沓脱《くつぬ》ぎの下にすわっているお美夜ちゃんは小さなからだが、ガタガタふるえだした。
押しこみをおさえたり、人殺しをつかまえたり……お奉行さんなんてどんなにこわい
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