乏人でも、腹巻きや下帯は、切りたての晒《さら》し木綿のりゅう[#「りゅう」に傍点]としたのを身につけている。
それをつなぎ合わせましたから、ここに長い一本の綱ができた。
即製の、いのち綱。
「さぐりを入れるんだ。先に、何か引っかけるものをつけなくっちゃアならねえ」
もう、足を洗うぬかるみの中に立って、一同は死にもの狂いの働きだ。
誰かが、焼け跡から桶《おけ》のたがを見つけてきた。それを、そのつないだ帯のさきに結びつけたが、これだけでは、水のなかへ沈んでいかない。
「重りをつけろ」
というので、そのまたたがへ、てごろの石をゆわいつけた。
このふしぎな命綱を、静かに穴の水中へおろしてやるのだ。あせる心をおさえつつ。
へんな夜釣りがはじまった。
「手ごたえはねえか」
地引き網のように、五、六人で綱のはしを持ってたぐりおろしてゆくと、しばらくして、
「ウム、重くなったぞ! 何か引っかかった」
ソレ、あげろ、引きあげろ……と言うんで、勢いこんで、ひっぱりあげてみると、何と! 大きな岩が桶のたが[#「たが」に傍点]にひっかかっている。
水は、いたずらにムクムクとわき出るだけ、…
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