い人たちほど、涙ぐましいくらい、同情心が深いものです。
人の身の上が、ただちに自分の身の上なのだ。トンガリ長屋の連中は、もう一生懸命。男も女も、全身の力を腕へこめて穴を掘ってゆく。
ふだんはめっぽう喧嘩っぱやい、とんがり長屋の住人だが、この美しい人情の発露には、チョビ安も泣かされてしまいました。
「ありがてえなア。おいらの恩人は、この長屋の人たちだ。いつか恩げえしをしてえものだなあ……――」
うれし涙をはらって、チョビ安、ひとり言。
穴の周囲は、戦場のようなさわぎです。糊屋《のりや》のお婆さんまで、棒きれをひろってきて、土をほじくっている。これは助けになるよりも、じゃまになるようだが……――うしろのほうで突然、トンツク、トンツクと団扇太鼓《うちわだいこ》が鳴りだしたのは、法華宗《ほっけっしゅう》にこって、かたときもそれを手ばなさないお煎餅屋《せんべいや》のおかみさんが、ここへもそれを持ってきて、やにわにたたきはじめたのだ。士気を鼓舞すべく……また、南無妙法蓮華経《なむみょうほうれんげきょう》の法力を借りて、この穴埋めの御難を乗りきるべく――。
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とんつく、
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