すでに左膳のもとへ――。
その左膳の手へうつった壺もお藤姐御のために、通りすがりの屑屋へおはらいものになって。
今は?
どこにあるかわからない。
……とは、峰丹波、知らなかった。
計略が図に当たって、源三郎を罠《わな》へ落としこんだのみならず、何かと邪魔になる丹下左膳まで、飛んで火に入る夏の虫、自分から御丁寧にも、その穴へ飛びこんでくれたのだから、これこそほんとうに一|網打尽《もうだじん》である。
このうえは。
深夜までここにじっとしていて世間の寝しずまるのを待ち、一同で手早く、地面から地下へ通ずるあの三尺ほどの竪坑《たてあな》を埋めてしまえばいい。
そうすれば。
人相も知れないほどに焼けただれた、あの若侍の死骸と、壺を、源三郎とこけ猿ということにして、本郷の道場へ持って帰る。
もうその手はずがすっかりととのって、いま、この納屋の一隅には、白布をきせたその焼死体と、焼けた茶壺とが、うやうやしく置いてあるのだ。
峰丹波、今宵ほど酒のうまいことのなかったのも、むりはない。
狭い物置小屋に、一本蝋燭の灯が、筑紫《つくし》の不知火《しらぬい》とも燃えて、若侍の快談、爆笑
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