ともに、一升徳利をいくつもかかえこんで、このとき、納屋へかけこんできた者がある。

       二

 見ると、左膳に火事のことなどを話したあの町人である。
 酒を買いにいって、いま帰ったところだ。
「サア、おのおの方、これにて祝盃をあげ、深夜を待つといたそう」
 と言う彼の口調は、姿に似げなく、侍のことばだ。
 これも、司馬道場の一人なのである。
 一同は歓声をあげて、そこここにわりあてられた徳利を中心に、いくつとなく車座をつくって飲みはじめる。
 いつのまにか、浅黄色の宵闇がしのびよっていた。こころきいた者の点じた蝋燭《ろうそく》の灯が、大勢の影法師をユラユラと壁にもつれさせる。
 皆の心がシーンとなると、とたんに、言いあわせたように胸に浮かんでくるのは、あの、自分らが誤って斬り殺し、それを焼け跡へ放置して、源三郎と見せかけた仲間の死骸。
 かたわらにころがしておいたのは、名もない茶壺で、ほんとうのこけ猿の茶壺は、とうに峰丹波の手におさめ、本郷の屋敷に安置してある……。
 と思うから、丹波は上機嫌だが、その壺が早くもあの門之丞によって盗み出され、又その門之丞が斬りたおされて、壺は
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