活《い》けてくれた花|籠《かご》である。
 秋の七草をいけたあの籠の中には、竹筒が入っている。そうだ!
 お蓮様は裾を乱して、片隅の文机《ふづくえ》の上の硯箱《すずりばこ》と、料紙《りょうし》入れへかけ寄りながら、
「お美夜! お前に、こんなことをさせたくはないけれど、二人の命の瀬戸際だからね。今母ちゃんがお手紙を書いて、あそこの竹筒へ入れるから、お前はそれを持ってこの裏山づたいに谷川へ――いいかえ!」

   御代参《ごだいさん》


       一

 宇治道中の茶壺駕籠を、荒しに荒して、東海道に白い旋風が渦《うず》まくとまでの評判をたてた丹下左膳。
 いくつとなく壺を手がけても、めざすこけ[#「こけ」に傍点]猿の壺には、まだ見参しない。
 壺中の天地、乾坤《けんこん》の外《ほか》。
 一つ事に迷執《めいしゅう》を抱き、身、別世界にある思いの左膳は、朝夕夢のこけ[#「こけ」に傍点]猿《ざる》を追って、流れ流れてふたたび江戸へ……。
 第二の故郷。
 白髪、江《こう》を渉《わた》り、もとの路をたずぬ。何年も江戸を明けたわけではないけれど、しきりに、そんな気がしてならない。
 山野、
前へ 次へ
全430ページ中384ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング