街道の砂ほこりにまみれ、人血の飛沫《ひまつ》に染んだ例の白衣《びゃくえ》に、すり切れた博多の帯を、それでもきちょうめんに貝の口にむすび上げ、ずしりと落とし差した妖刀|濡《ぬ》れ燕《つばめ》の重み――。
 抜けあがった大たぶさを、ぎゅっと藁でしばった変相妖異のつらがまえ。
 竹の棒のように痩せさらばえた長身の、片ふところ手……とことわるまでもなく。
 かた手ははじめッからないんだったッけ。
 しかめッつらに見えるのは、右眼をつぶしてななめに走る刀痕のゆえ。
 ニュッとあごをつき出し、幽霊のように蹌々踉々《そうそうろうろう》と歩きながら、口の中につぶやいてゆくのを聞けば、
「燕雀何徘徊《えんじゃくなんぞはいかいせる》、意欲還故巣《いはこそうにかえらんとほっす》――か」
 がらにないことをブツクサ口ずさんで、
「おい左膳、こうして手ぶらで江戸へけえってきたところをみると、おめえも、よっぽど里ごころがついたのだろう」
 自分を相手のひとり言。一歩ごとに濡れつばめの鍔のゆるみが、カタコト鳴るのが、「人が斬りてえ、アア人が斬りてえ」――というように聞こえるので。
 チョビ安の野郎は、どうしたろう?
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